前川洋一郎
まえかわ・よういちろう
老舗ジャーナリスト、公益資本主義推進協議会理事兼高知工科大学大学院起業マネジメントコース客員教授、ほか。1944年大阪生まれ。67年、神戸大学経営学部卒業、同年、松下電器産業(現パナソニック)入社、経営企画室長、eーネット事業本部長、取締役を経て、2007年、関西外国語大学や流通科学大学、大阪商業大学大学院で教鞭。専門は企業経営論「企業家学」、経営史「老舗学」。所属学会は組織学会ほか。著書に『なぜあの会社は100年も繁盛しているのか』、編著に「カラオケ進化論」、共編著に『老舗学の教科書』など。
老舗に学べ!
超高齢化社会の到来が叫ばれる昨今、メディアなどでよく見聞きするのが「人生100年時代」というフレーズです。平均寿命が100歳まで延びたわけでもないのに「100年時代」という言い回しが重宝されているのは、日本人が元来「100」という数字を好むからなのかもしれません。
さて「100年企業」もまた、老舗を象徴するフレーズです。しかし、21世紀のデジタル社会では「100」の捉え方が変容し、創業100年を迎えたからといって中身が問題であり必ずしも老舗として認められないでしょう。
もちろん、経済・経営の世界において「100年企業」は「生きた化石」です。温故知新の精神で大切にするべき存在ですが、老舗の側も社会の変化を意識しながら、成長し輝く「生きた化石」としての覚悟を忘れずに努力を続けなければなりません。
公益資本主義推進協議会(PICC)の100年企業研究委員会が継続してウォッチしているのも、ビジネスを通じて100年永続・繁盛の社会貢献を目指す取り組みです。
業界史や社史などを紐解いて数多くの事例を探求すれば、100年企業の必要十分条件、日本に長寿企業が多い理由が見えてきます。それらの根底には「会社は誰のものか」「何を目指すか」の理念が不可欠です。
老舗学は「大きい会社より、いい会社を目指す」という公益資本主義に根差しています。「いい会社」の価値観を背骨に「企業家学」と「家族経営学」を磨き上げてきたのが老舗です。
会社や組織は単なるモノではありません。血と心が通った人間の集合体です。老舗が社会で必要とされる理由も、まさに人間の集合体だからということに他なりません。
こうした視点の見方も掘り下げていけば、新しい経営学の流れができてくるでしょう。100年企業研究委員会は「生きた化石」に内包された多様性を鳥の目、魚の目、虫の目で見つめなければなりませんが、会社は人間が経営するものです。最後は人間の目で、「いい会社」の有り様に目を凝らしてほしいと思います。
バブルが始まった1986年、国内の開業率は廃業率を大きく上回っていました。しかし、バブル崩壊後は率が逆転。企業の数はどんどん減りましたが、せめて互角に戻さなければなりません。
そのためには、聖徳太子以来の和の精神、近世以来の勤勉精神、戦後型の復興チャレンジ精神を取り戻し、公益資本主義を指針に王道経営を歩む21世紀の新日本型経営を創り出す必要があります。
日本は世界最高のファミリービジネス立国です。老舗に多い家族経営の強みも生かして社会に貢献するビジネスモデルを生み出すためには、公益資本主義大学の開設も有用ではないでしょうか。それを実現するくらいの志と気概に満ちた活動を実践しているPICCなら、新日本型経営の創出という大目標を必ず達成できると確信しています。