【株式会社マルアイ】心と暮らしを「包む」価値を創造 伝統的な紙製品と最新技術の化成品を生み出す老舗

和紙の里として知られる山梨県市川三郷町。1888(明治21)年にこの地で紙問屋として創業し、現在は紙製品と産業包装用品の製造・販売を手掛けているのがマルアイだ。

伝統的な紙製品と最新技術を駆使した化成品の2事業をハイブリッドに展開し、「『包む』価値の創造」を追求し続けている。

「チャレンジ」と「変化」を前面に打ち出す攻めの企業姿勢は、「変わらないこと」を重んじる保守的な老舗のイメージとは一線を画す。7代目社長の村松道哉氏に、会社の歴史や将来ビジョンについて伺った。

インタビュアー:安東 裕二(株式会社FMC
加藤 俊 (株式会社Sacco)

村松 道哉

むらまつ・みちや

武蔵大学卒業。1987年株式会社マルアイ入社。商品企画や営業部長などを経て、2009年に社長に就任。

目次

  1. 紙製品と化成品で「包む」技術を切り拓く
  2. 経営理念の根底にある考え方は「三方よしプラス社員よし」
  3. 135年間の歩みはチャレンジと変化の歴史
  4. 「何事もこの町から発信していくことが大事」

紙製品と化成品で「包む」技術を切り拓く

―本日は、どうぞよろしくお願いします。初めに、現在の事業概要をお聞かせください。

紙製品事業と化成品事業を手掛けています。紙製品として作っているのは小売店でBtoC向けに販売している祝儀・慶弔用品や便箋・封筒などで、化成品はプラスチックの食品包材がメインです。アイスクリームや中華まんじゅう、漬物、魚類の加工品など、さまざまな食品のパッケージを製造しています。

また1984年には、電子部品を静電気から守る静電防止フィルムを自社開発しました。1986年には、プラスチック基材に導電・帯電防止インキをコーティングしたSCS(スーパークリーンシート)を事業化。化成品事業は世の中のIT化の波もしっかりとキャッチし、今はスマートフォンの製造過程でも使われています。

もともとは紙製品事業の売り上げ比率の方が高かったのですが、コロナ禍で冠婚葬祭が激減したこともあり、ここ2、3年は化成品事業が逆転しました。

両事業の現況と将来展望はいかがでしょうか。

文具業界全体を含め、コロナ禍の前と同じ水準には戻っていません。海外に進出している企業は好調ですが、我々のように国内だけで展開している企業は苦しんでいますね。すべての既存メーカーが、将来も残り続けるのは難しいかもしれません。

弊社は祝儀袋業界でトップクラスのシェアを持ってはいますが、市場の先行きは確実に人口と比例すると考えています。全体のパイが減る中で、どれだけシェアを高めていけるかが勝負所です。

一方、化成品事業の展望は悪くないと見ています。弊社は食品パッケージの業界では小さな存在ですが、市場そのものがなくなることはありません。脱プラスチックの動きはあるものの、現実的に液体やレトルトは紙で包装できないため、当面は現在の状況が続くと思います。

化成品事業における御社の強みは何ですか。

大手では対応しにくい小ロットの受注に、小回りを利かせながら対応しています。ただ、それで大きな利益を出せるのかと問われれば難しい。包材に関しては、何を強みにして生き残るかを改めて自問しています。

化成品事業は発注に応える下請け的な仕事ですが、今後はこちらからも新たな製品・技術などを提案しなければなりません。自分たちの強みを見つめ直し、積極的に売り込めるような事業にする必要があると思っています。

経営理念の根底にある考え方は「三方よしプラス社員よし」

企業として、どんなことを大切にしていますか。

2015年頃にコーポレートアイデンティティー(CI)を刷新し、3つの目標に基づく経営理念を打ち出しました。

3つの目標とは「販売にあたっても、購買にあたっても、関わる皆さまに満足され、わが社もまた、永々と発展する企業であること」「社員が働き甲斐のある誇りのもてる職場であること」、そして「地域社会の皆さまに愛される会社であること」。分かりやすく言えば、「三方よしプラス社員よし」の会社を目指しています。

さらに、お客様の心と暮らしに寄り添う「包む」にこだわり、「包む」の価値を創造し続けることをモットーにしています。

-社員の皆さんには、経営理念やモットーをどのように落とし込んでいますか。

2018年から「社員がワクワク・イキイキ働けるような制度の導入」をテーマに、社内設備の改善や福利厚生の充実などについて社員自らがアイデアを出し、実際に取り組む活動を継続しています。

「ワクワク・イキイキ」は、日常業務も含めて社員が共有すべき価値観です。弊社はメーカーなので、新たな製品・技術を生み出していく必要があります。そのヒントは自分たちの身の回りにあるため、日々の生活の中での気付きを大切にしようと説いています。

また、お客様に満足していただける製品・サービスを提供するのは、メーカーとして当たり前のことです。驚きや感動など期待を超えるプラスアルファを提供するには、新たなチャレンジが欠かせません。

身の回りのヒントに気付き、失敗を恐れずチャレンジした先に何か良いことが待っているかもしれないということに対して「ワクワク・イキイキ」しようと呼び掛けていますね。

我々の気持ちがお客様に伝われば、お客様が良くなり、我々もやりがいを感じることができる。それこそが弊社の価値観で、「マルアイの軸」の1つであると考えています。

135年に及ぶ長い歴史の中では、大変な苦難もあったのではないでしょうか。

いろいろなことがあったと思います。昭和30年代には二度の火災に見舞われ、工場が焼けてしまったそうです。当時、香典返しの品として一般的だった砂糖を入れる紙箱を作れなくなり、代わりの製造元探しに奔走したと聞きました。火災を教訓とし、昔の工場には自前の消防ポンプ車があったんですよ。

また、1990年代半ばには工場や事務所の建て替え費用がかさみ、年間売上高の半分ほどに達する50億円もの借金を抱えることに。当時の社長が紙の在庫を減らしながら化成品事業に力を入れるなどし、何とか返済できました。

もう1つの苦難は、やはりコロナ禍ですね。祝儀袋などが使われる冠婚葬祭が激減しましたし、小売店も休業状態が続きました。また、発注から納品まで4カ月もの期間を要する海外の製造拠点はコロナ禍だからといって急にはストップできません。大量の在庫を抱えてしまうことになりました。

しかも、いったん操業を止めた海外の工場は、市場が回復してきたからといって働き手が集まらず、今度は品切れに。リードタイムがかかってしまう製品の需給調整は本当に難しいのですが、コロナ禍のようなことが再び起こらないとも限りません。そのため、将来に向けてどう備えるべきかを模索しています。

135年間の歩みはチャレンジと変化の歴史

創業150年、200年を見据え、自社が乗り越えるべき課題をどう認識されていますか。

創業者の村松富吉は産地問屋として手すき和紙の販売を始め、お客様の好みを取引先に聞いては納めるということを繰り返して徐々に販路を広げました。紙製品を作るようになってからも同じものだけを作ってきたわけではなく、製品も社内制度も何かしらのチャレンジと変化を重ねてきた歴史があります。

長寿企業は「このままで大丈夫」「伝統を変えてはならない」という考えに陥りがちです。しかし、失敗を恐れずチャレンジし、変わっていこうという機運がさらに高まれば、弊社はもうひとつ上のステージに進めると思っています。

チャレンジと変化を重ねながら「将来もこれでやっていける」と確信できる製品・技術をつかみ取るためには、社員自身が強い向上心を持ち続けなければなりません。人が成長しなければ、どんな会社も成長しませんから。

会社が変わる兆しは見えていますか。

新たな製品・技術や「包む」の価値を創造しようと考えている中、自社の研究開発部門は導電・帯電防止の技術をベースにして機能性包材を進化させようと取り組んでいます。これからどう展開していくか、とても楽しみですね。

また、組織全体としては、中途で入ってくる人たちが新しい風を入れてくれています。例えば、2023年11月に「祝儀袋の自販機」を東京・有楽町に期間限定で展開しました。このアイデアを出したのは、まさに中途採用の社員です。業界初の取り組みは複数のメディアで取り上げられたほか、X(旧Twitter)でも「ありがたい」という好意的な反応が占めています。

「何事もこの町から発信していくことが大事」

ステークホルダーへの向き合い方で心掛けていることはありますか。

社員に対しては、できるだけチャンスを与えようと考えています。2期目を迎えた「SHINKA」という社内勉強会には経営を勉強したいという社員が参加でき、それぞれが擬似経営計画を立てて役員の前で発表します。面白い取り組みがあれば実際に取り入れることにしており、化成品の販売方法に関する提案などを実行に移しました。

社員からは新規事業のアイデアも募っており、「社員がワクワク・イキイキ働けるような制度の導入」という企画では、自分にとって大切な記念日を有給休暇にあてるアニバーサリー休暇を制度化しました。休暇の対象者には、飲食などに使えるギフト券を会社から支給しています。

地域貢献としては2018年シーズンから、Jリーグ・ヴァンフォーレ甲府のユニフォーム(パンツ)スポンサーになりました。私自身、すべてのホーム戦をスタジアムで応援しているんですよ。

また、地元の小・中学生の会社見学や職場体験を受け入れているほか、廃棄されそうな食品を集め、食べ物を必要としている施設や困窮世帯に無償で提供するフードバンクの活動にも協力しています。

さらに、2023年9月に財政非常事態宣言を出した市川三郷町の要請で、行財政改革計画の策定に向けた有識者会合に参加。財政破綻の危機から救おうと、専門知識を持つ人材を派遣しています。

「マルアイの軸」に加え、経営面で重視していることは何でしょうか。

社員には「売り上げを重視しない」と伝えています。我々が求めているのは利益です。売り上げを確保しようとすると値段を叩かれやすくなるため、利益を拡大させる売り方を考えなければなりません。

-最後に、今後の目標についてお聞かせください。

以前は東京を主戦場と考え、あらゆるリソースを重点的に投入しようとした時期もありましたが、今は変わってきました。市川三郷町で生まれた会社として、何事もこの町から発信していくことが大事。将来的に世界で戦うにしても、ここに人を呼んでくることが重要です。

東京に軸足を置けば、そこで人を集められるのは間違いないでしょう。しかし、それでは意味がありません。この地に根差し、まちづくりに貢献できる企業になりたいと思っています。

-本日は、貴重なお話をありがとうございました。