【伊那食品工業株式会社】「PICCいい会社ツアー」REPORT

「いい会社」「何でもみんなでやる」「年輪経営」

PICC では「王道経営を学び、実践する、いい会社を増やす」を年度の最上位⽬的に掲げ、活動しています。会員企業は、いろいろなかたちで「いい会社」について学び、各社でできることに挑戦していますが、その⼀環として 2023 年 6 ⽉ 29 ⽇と 30 ⽇、⻑野県内で「いい会社」と名⾼い 3 社に訪問させていただくツアーを実施いたしました。

今回は、その中の 1 社、⻑野県伊那市の伊那食品工業での学びについてエッセンスを紹介させていただきます。テーマは「会社の目的は社員の幸せ」です。多くの企業経営者がロールモデルとして挙げる伊那食品工業様がどのように会社を成長させ、社員の幸せを実現しているのか? 業種や業態は違えども、大切にすべきポイントには多くの会社で通ずるものがあると思います。ぜひツアーに参加できなかった皆様にとって参考になれば幸いです。

伊那食品工業株式会社 塚越 英弘 社長 講話より

企業にとって売り上げや利益はなくてはならないものですが、それらはあくまでも社員の幸せをつくるための手段であり、結果です。誰だって収入は多い方がいいに決まっているので、当社は社員の収入を毎年必ず上げていくことを約束しています。賞与の支給率はほぼ固定で、基本給が増えれば賞与も増える仕組みです。

とは言え、そのように考える会社は少なく、賞与の支給率は業績と連動させるのが一般的でしょう。しかし、そうしている以上は業績を主体に考えているということになります。もちろん、社員の収入を毎年必ず上げるためには原資を確保しなければなりません。社員もそこは理解してくれており、そのためにみんなで頑張ろうという発想で仕事に取り組んでくれているのです。

こんな話をすると「業績が好調だから可能なのだろう」と言われることもありますが、当社の業績も2020年から3年間はコロナ禍の打撃を受けました。しかし、社員の給与と賞与はその間も増えています。その理由は、全てにおいて「社員が幸せに働けるようにするためにどうしたらいいか」ということを軸に考えているからです。

そもそも、当社は社員に対して売り上げや利益の数値目標を設定したことは一切ありません。工場や研究室などでも同様です。企業だけでなく行政も含め、どこでも目標を数値化するのが一般的だと思いますが、当社では一切していないのです。なぜなら、数字というのはあくまでも結果だからです。もちろん、振り返りや分析は大切ですが、過去のことばかりをとやかく言っても始まりません。だから、会議でも新しい商品のことやこれからどうしていくべきかという前向きな話し合いを重視しています。どこの会社でも会議のための資料づくりをされていると思いますが、我々はそういうことも必要最低限にとどめています。資料づくりに時間や労力を費やすよりも、他にやるべきことがあるという考えです。近年、「生産性向上」は日本企業の大きな課題とされていますが、もしかしたら原因はこういうところに潜んでいるのかもしれませんね。

ただ、従業員は個人、チーム、支店、工場単位でさまざまな目標数字を自主的に決めていると思います。そこは会社が管理すべき領域ではないのです。会社に言われたことや決められたことより、自分で決めたことの方がやりがいを持てるはずです。アスリートの世界でも、目標は押し付けられるものではないはずです。だからこそ高いパフォーマンスにつながるのです。当社の「幸せになる」という目的の達成には、楽しく仕事をすることが絶対条件なのです。

コロナ禍で経験したように、先のことは誰にも分かりません。そのため、当社は経営計画を策定したこともありません。外的要因が影響する計画は絶対に狂います。ただし、根本になければならないのは「自分たちの会社がどんな方向を目指すか」を明確にすることです。それがなければ、社員はてんでばらばらになってしまいます。

当社には「いい会社をつくりましょう」という考え方が根底にありますが、さらに大事なのは社員が根本的な考え方を理解し、目的を共有することです。同じ方向性を目指して働いてもらうためには、会社の考え方をどのようにして伝え、浸透させるか。「こうすれば必ずうまくいく」という正解はありませんが、そのための取り組みは続けなければなりません。

そのため、当社が大事にしているのは「何でもみんなでやる」ということです。勉強会や朝掃除、朝礼、お祭り、4年ぶりに再開する社員旅行などの”仕掛け”がありますが、みんなで同じことをすれば上下関係に縛られない横のつながりができます。円滑なコミュニケーションを取りやすい関係性は、圧倒的に横のつながりだからです。会社で伝えたいことも、そういうところからの方がより言葉や理論を越えたところで浸透するのです。

また、目的を明確に伝えることも大切にしています。会社の目的は「社員が幸せになること」と伝えていますが、何をやるにしても目的を明らかにするようにしています。たとえば朝掃除の目的は気付きの訓練です。作業は時間も内容も決めていないので、みんなで状況をよく見て、今日は何をすべきか考えなければなりません。社員の3分間スピーチを実施する朝礼の目的は人前で話をする訓練で、社会生活を送る上で役立ちます。普段何気なく行っているラジオ体操でさえ、実は一つ一つの行動に目的があるのです。「この動きは瞬発力を上げるためにあるんだ」と目的を理解していれば、一つ一つの行動が変わっていくのです。

このように、どんな取り組みも自分に恩恵が返ってくるということが伝われば、自然に浸透すると思います。もちろん、この会社をどうしていくかという目的を浸透させられるのは、相手との信頼関係があってこそ。いくら正論を言ったところで、信頼関係がなければ伝わりません。信頼を得るためには、嘘をつかないことが大事です。

「社員が幸せになることが目的」と言いながら、会社がやっていることが一致しなければ信頼してもらえません。たとえば当社の場合、ビジネスに流されて業績を優先してしまうと、会社の目的の軸がぶれたことが社員に伝わってしまいます。伝えた通りのことをきちんと実行できているかどうかを、常に考えなければなりません。

当社にとって社員は「ファミリー」なので、最適な人事制度は年功序列です。会社の目的が明確なら、生産性が低下するような問題は起きません。人手不足が叫ばれる中、採用活動に困ったこともないのは、毎年一定数の新卒社員を必ず採用しているからです。企業の都合でしかない業績を優先させ、採用数を毎年変える会社もありますが、当社はそういうことをしていないので、学校や学生の皆様に信頼していただけているのだと思います。

もちろん、当社の考え方が全て正しいと言うつもりはありませんが、「自分たちのあるべき姿は何なのか」をきちんと考え、そのための取り組みを続けていくことが大事です。会社の最終到達点というものは存在しないので、「昨日より今日、今日より明日」というように少しずつ良くしていく以外にありません。

そうすれば、社員たちも常に希望を持てるようになります。人間が幸せであるために一番大切なのは、常に希望を持ち続けられる状態でいられることです。本日の講話が、皆様にとってそのようなことを考えられる機会になればと願っております。

PICC所感

伊那食品工業様は、南信州の伊那谷に本社を構える国内ナンバーワンの寒天メーカーです。「企業の目的、あるべき姿は社会、人々の幸せを追求することであり、その中で最も重要で身近な社員の幸せを追求すること」という公益資本主義に通じる考え方を掲げ、着実に企業を成長、永続させる「年輪経営」を実践されています。その考え方や取り組みについて学ぼうと、トヨタ自動車や帝人など日本を代表するグローバルカンパニーの経営幹部たちも足しげく視察に通う、言わずと知れた有名企業です。

さまざまなメディアや書籍で学んでから参加したので、今回の3社の中で一番予備知識を持って臨みましたが、あらゆる面で我々の想像をはるかに越えたレベルで「いい会社」でした。「王道経営」について真剣に学び、自社で実践することを試行錯誤しているPICC会員だからこそ、その凄さが身に染みて伝わったと思います。会社の在り方を定め、全社一丸となって実現に取り組む。「言うは易く行うは難し」に何度も打ちのめされた経営者にとって、目指すべき「王道経営」の完成形でありました。

特に「数値目標を設けない」という考え方について、講話でも丁寧に紐解いて説明していただきましたが、それでも信じられない経営者から、質疑応答でも様々な角度で質問がぶつけられました。塚越社長の淀みなく自信に満ちたお答えに「ここまで徹底しているのか」と納得せざるえを得ず、一朝一夕で実現できるものではないことが腹落ちしました。

それでもPICCで学んできたことを、ここまで高いレベルで実践している会社があるという事実は、全参加者にとって勇気となり、目標となりました。今回教わったこと、感じたことを自社に落とし込み、「いい会社」としていくパワーに変えていく所存です。