【第一酒造】米と水と技術と。延宝元年創業の酒蔵に訊く造酒の極意。


今回の100年企業は、1673年創業の第一酒造様です。

なんとその歴史は徳川家綱公の延宝にまで遡るという、県内最古の蔵元さんです。山々が織りなす豊かな緑、ふくよかな土壌に浄められた清水には古人も心を打たれたようで、万葉集にもその景観が詠われていることから「水と緑と万葉のまち」とも呼ばれる佐野市。そんなお酒造りにはもってこいのこの街で330年余りもの間、日本酒を届け続けてきた第一酒造様に、お酒造りの秘訣を伺いました。


プロフィール

島田 嘉紀──

しまだ・よしのり

第一酒造株式会社 代表取締役社長。1984年、栃木県立佐野高校卒業。慶應義塾大学法学部法律学科時代は体育會競走部に所属、国体陸上競技で第2位入賞。1988年、アサヒビール㈱入社。営業時代には酒類自販機販売台数で全国でトップになる。1991年、第一酒造㈱入社。クラウドファンディングや日本酒と夏野菜を楽しむ夕べ「ひやガーデン」など、あらたな酒への取り組みも積極的に行いながら伝統的な日本酒を守り続けている。

美味しいお酒を生み出すのは丁寧な下ごしらえ。

―本日は300年以上の歴史を持つ第一酒造さんが日頃どのようにして日本酒を作られているのか、その製造過程を見せていただけるということで大変楽しみにしてきました。よろしくお願いします

島田氏:こちらこそよろしくお願いします。では順に見ていきましょう。まず始めは精米です。

実際のところ、精米を自分のところでやっている酒蔵は全体の2割程度で、大手さんでも意外と自分ではやっておらず、農協さんや他の精米業者さんに頼むケースがほとんどです。

その点うちはもともと米を作っていたため「自分の米がそこにあるのにわざわざ外に持っていって精米してまた戻ってきてもしょうがない」ということで、昔から自分たちでやっています。元々この建物の下には川が流れていて、その頃を実際に知っているわけではないのですが、以前は水車を回してそこで精米していたそうです。なにせ現代のようにはできない時代ですからね。

美味しい日本酒は上質なお米から。第一酒造さんでは栃木県産のお米を使用しているそうです。

今はタンクに最大20俵・1200kgの米を入れているのですが、精米が進むにつれてかかる時間も増えていきます。最初に10%削るとすると1時間か1時間半で終わるのですが、後半になってくると1%削るのに2時間かかる、という具合ですね。

弊社の平均である43%程度だと10数時間、大吟醸のように6割以上削るとなると50時間位は必要です。

─削るほど美味しくなるということですか?

島田氏:一般的にはそうですが、好みの問題や料理との相性にもよりますね。

そして精米が終わったら、次は洗米といって、文字通り米を洗う工程に入ります。精米を経て小さくなった米の外側には削った分のパウダーが付いているので、それを洗い流します。これをやるのとやらないのとでは、大分仕上がりが変わってきます。

少し前までは水槽の中に米を入れ、強い水流でかき混ぜて洗い流していたのですが、最近は空気の気泡を入れています。空気を混ぜることによって強い水流が当たらなくてもパウダーを洗い流せるので、米が割れにくいというメリットがあります。

―なるほど。細かいですが大切な一手間ということですね。

島田氏:その通りです。その次は、浸漬という、米を水に漬けて吸水させる工程です。米は、精米によって小さくなればなるほど水を吸いやすくなるため、吸水しすぎないよう、いかに早く水から揚げるかが勝負になってきます。それが終わると、今度は1時間ほどかけて米を蒸してベルトコンベアーに流すのですが、その間に風を当てて冷やしておきます。これは熱で酵母が死なないようにするためですね。

─お米同士がくっついてしまうことはないのですか?

島田氏:もちろん蒸したままだとくっついてしまいますが、冷ましてあるのでそれはありません。

元より粘り気の少ない酒米を使用していることもありますし、また、磨きの工程を経ていたり、そもそも蒸しているだけで炊いているわけではないので、いわゆる白米ご飯のようなくっつき方はしないですね。風を当てる中で水分が飛ぶこともくっつき防止を助けていると思います。

変わりゆく時代、変わりゆく酒造り

─なるほど。機械間のお米の移動はどのように行っているのですか?

島田氏:昔は現在と異なり、浸漬タンクから蒸す釜、冷却機への移動を全て人力で行っていたのですが、それは出稼ぎで働きに来ていた人が多かった当時ならではの方法ですね。私より上の世代、60〜70歳の方々が毎日1トンの米を持ち上げていたのですから、すごい話です(笑)。

それが段々と機械化していった背景には、まず1つに時代が変わるにつれて働き方に対する意識も変化していった、ということがあります。栃木県内でいうと新潟や岩手あたりから来る人が多かったのですが、半年間単身赴任して泊まり込みで働いて、という働き方を段々選ばないようになってきたんですね。

加えて、米の移動をわざわざ人の手で行う必要があるのか、という問題もあります。生き物相手の工程、例えば温度管理などは、機械任せにせずに人間の目でチェックすることが必要ですが、ただ単に運ぶ、となると一生懸命人間が運んだからといって良い効果が見込めるわけでもありません。費用対効果があまり高くないんです。楽できるところはしっかり楽して、その分人力が必要な箇所に集中する、ということが大切だと考えています。 

─機械に頼れるところは潔く任せる。コストの点などでも大事なことですね。

島田氏:そうですね。そして次は仕込みに入ります。仕込み用のタンクには大体1トン半の米と2トンの水が入り、最終的には一升瓶2000本ほどの量になります。今、1トン半の米と申し上げましたが、そのうちの8割は、先ほどの蒸し・冷却の工程を通ったもので、残りの2割は一旦米麹になったものが入ります。

そしてここが日本酒製造の難しいところなのですが、ここで、麹の力でお米のデンプンを糖化させると、分解されてできた糖を酵母が食べることでアルコールが生成されます。

この発酵作業を大体仕込んでから3週間程の間に行うと、アルコール度数が17%位に上がってきます。すべてのお米が液体になるわけではないので、ここで固体と液体を分ける、つまり搾るのですが、そうして残った固形部分が酒粕、液体が清酒となって出荷されます。温度が高いとカビにもつながるので、ここでも温度管理に気をつけなければいけません。

先ほど難しいと申し上げたのは、例えばワインなら素材がぶどうジュースのため、初めから糖が含まれていますが、日本酒は先程の糖化の工程が必要になるため、手間がかかるというわけですね。そのため、単純な比較で言うと、技術要素が多いのが日本酒、工程が少ない分、原料の比重が大きくなるのがワイン、という構図になります。

いよいよ瓶詰めへ。

─ここまでの工程を踏んで、ようやく瓶詰めができるわけですね。

島田氏:しかしまだ油断してはいけません。ここで気をつけないと、酒に悪影響を与えてしまう乳酸菌が入ってしまい、後になって白く濁ってしまうからです。

それを防ぐため、普通はお酒を熱くしてから詰め、仮に瓶の中に乳酸菌が混ざってしまっても殺菌できるようにしておくのがほとんどです。

ただ、お酒を長時間高温にしたままだと、例え乳酸菌を殺すことができても、香りが逃げてしまったり、飲み物としての品質を考えた時に必ずしもいいことばかりではないんですね。そのため、今は常温のまま瓶詰めした後、ベルトコンベアーで移動する間に熱湯のシャワーをかけて、外側から中身を温める、という方法を採っています。熱いものを詰めるのではなく、詰めてから熱くするということですね。そして、徐々に冷やしていって最後には常温に戻るというわけです。

こんな風に様々な工夫を凝らした末にやっとできあがった製品ですから、きっとお客様にも楽しんでいただけるのではないかと思います。これからも美味しい日本酒を届けられるよう精進していきますので、どうぞよろしくお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です