【大徳家】創業明治2年の寿司店、『変えない努力』と『変える勇気』


今回の100年企業は、創業明治2年の南房総市最古の老舗寿司店、大徳家様です。

脈々と受け継がれて来た歴史や、お寿司へのこだわり。時代の変化の中で新たに挑戦する勇気や、変わらず地元で愛される秘訣を、5代目店主である栗原様に伺いました。


インタビュアー:安東裕二

プロフィール

栗原 和之

くりはら・かずゆき――南房総市最古の寿司店大徳家5代目店主。千葉県生まれ。高校卒業後は料理の道を志し大阪へ。「あべの辻調理師専門学校」で料理の基礎を学び、東京・銀座、数寄屋通りにあるミシュラン一つ星の名店「銀座 寿司幸本店」にて11年間、寿司の本格的な修行に明け暮れた。「大徳家」継承のため千倉に戻り、東奔西走。現在に至る。

目次

  1. 強制しない世襲。修行の中で見えてくるもの
  2. 大徳家の150年続く家訓『変えない努力』と『変える勇気』
  3. 5代目からのネット集客と新たな挑戦
  4. 地元で求められている姿と、日々の研究

強制しない世襲。修行の中で見えてくるもの

―はじめに、お店の名前の由来を教えてください。

栗原氏:初代の女主人が”お徳さん”という方で、その名前が由来となっています。よく「仏教の大徳寺さんと関係があるんですか?」と聞かれることがありますが、全く無いんです。

― 大徳家さんは、南房総で151年間続いているお店ですよね。

栗原氏:そうですね。現在は5代目の自分が継いでいます。今は息子も東京に修行に行っています。

151年間、家系で代々受け継がれている、というのは本当にすごいことだと思います。

栗原氏:それぞれが「次の代で完結しても」、くらいの気持ちでやっているとは思います。息子にも「好きなことをやれ」と言ってはいるのですが、息子も自分から継ぎたい言って修行に出ました。勿論、継いでくれたら嬉しいですけどね。

承継は強制ではないんですね。大将自身は「継ぎたくない」と思ったことはないのですか?

栗原氏:ないですね。修行は厳しいので、「なんで俺こんなことやっているんだろう」とは思った時期はありますが…。その当時は分からなかったけど、きついことをするのが修行ですからね。ついていこうと思うことが出来た良い先輩がお店にいたのが良かったです。今でも付き合いがあり、その先輩も独立されています。

お店は、千葉県は南房総市、千倉町にあります。
「昔ながらの建物、そして素朴な玄関。扉を開くのにわずかな勇気もいりません。気楽にガラリとお入りください。」(公式HPより)とのこと。

―修行というのは、外のお店でするものなのでしょうか

栗原氏:うちでも良いでしょうが、やっぱりどこかで甘えが出るので、あまりためにはならないかもしれません。それに親父から完璧に教わっても、それはあくまで親父の仕事。違う仕事も見たいですしね。

―そうなんですね。職人さんとして見た時に、お父様はどんな存在ですか?

栗原氏:尊敬しています。親父は私みたいに十数年別のお店で修行していたわけではなく、ほぼ独学でやっていたんです。すごく勉強したんだろうなと思いますね。

大徳家の150年続く家訓『変えない努力』と『変える勇気』

現在に至るまでに、経営のスタイルに何か変化はありましたか?

栗原氏:実はうちには家訓が2つあるんです。簡単なんですけど、「『変えない努力』と『変える勇気』」という。

「変わっても精神的な志はいつも同じ」という家訓です。例えば、指一本落としたらもう自分は寿司握れないので、そうなった時は日本一の海鮮丼のお店にしよう、といつも女将さんに言っています。(笑)

―なるほど(笑)改めて、150年お店が続く、ということの秘訣はどんな要因があるのでしょうか。

栗原氏:不思議ですよね。自分も気になってインターネットで調べてみたら、全国の寿司屋のお店の歴史を調べている人がいたんです。その人によると、続いている理由は「地元に密着していて大きくなったことないから」ということでした。

もちろん、大きくはなりたいですよ。お店のお客さん同士の距離が狭すぎるので。(笑)あと20cmくらい、私の代で広げたいです。でもあんまり大きくなっても、お金に余裕があるとその代が遊んじゃうんで今がちょうどいいのかもしれないですね。息子が帰って来るまではこのままかな。

従業員が増えたり、名前を有名にするのも大事だと思うのですが、今は店が小さいからこそ味やネタの質にこだわることができるんです。

―歴史の中で、お寿司の味は変化して来たのでしょうか?

栗原氏:ネタの大きさは、昔の方が大きかったですね。少しずつ変わっていると思います。それぞれの代がレシピを持っているわけではないし。ワインに強い時代があったり。同じことをやるのもすごく大事なんですけどね。ちなみにシャリも昔の方が大きかったです。

煮物のつゆや穴子のたれ、卵焼きなどは大徳家の味として変えないようにしています。

5代目からのネット集客と新たな挑戦

―今まで経営をされていた中で、様々な苦労やピンチがあったと思います。現在はどのような状況でしょうか。

栗原氏:今はやはりコロナの影響が大きいですね。まず、地元の人が動かないので、飲み会や集まりがありません。出前やテイクアウトなどを重視するような対策をしていますが、やはり少しずつ戻って欲しいと思っています。

―そんな状況の中でも、大徳家さんはFacebookを始めたり、新しい事に挑戦されていますよね。

栗原氏:そうですね。現在は”リモート寿司”をしています。

―”リモート寿司?!

栗原氏:YouTubeで私がお寿司を握っている動画を発信しています。自粛中でご自宅にいる状態でも、少しでもお寿司屋さんにいる気分になってもらうための試みです。動画の中で「はい、いらっしゃいませ!」と寿司を握ってネタの紹介をする、それをみてちょっとでもうちのお店にいる感覚を味わってもらいたいんです。”リモート寿司”は、検索しても日本でうちしかしか出て来ないと思います(笑)。

―素晴らしい試みですね。それを歴史のあるお寿司屋さんが発信しているというのがまたすごいです。Facebookページにも旬のお寿司の写真や動画が投稿されていて、ついつい食べたくなります。

栗原氏:ありがとうございます。今はなんでも発信できる時代だからこそ、やらないとですね。美味しい料理を出して待っているだけでお客さんが来てくれる時代もあったとは思いますが。

―150年もの伝統があると、簡単に新しいことをやってはいけないのではないか、というイメージがありました。

栗原氏:そうですよね。実は、ネットを使い始めたきっかけは親父からなんです。商工会でパソコンの使い方を学ぶ講習があって、行ってこいって言われたんです。それが案外面白くて。ホームページも自分で作ってみようかな、と思ったんです。だけど、20年前は机とパソコンを揃えるだけで40万くらいかかるんですよ。でも、思い切って始めてみました。

―ホームページもとてもしっかりと作られていて驚きました。

栗原氏:現在のホームページは、元々の知り合いでずっと頼みたかった人がいて、1年半前に頼んで作りました。色々と試行錯誤しながらも、集客ツールとして使っています。パソコン自体も、打つ手がないからやっているというよりも、自分の楽しみの延長線上でやれたのが良かったです。集客の必死さが見えると、ちょっと違うかなと思うので。

―それが普通だとなかなか難しいのですが、ある意味本質ですよね。新しい取り組みを始める際に自然と見せ方も考えられているのが素晴らしいですね。

地元で求められている姿と、日々の研究

―地元ならではの苦労というのもあるのでしょうか。

栗原氏:漁に関して、昔は同じ種類の魚を一気にとる漁だったのが、今は鯖が激減しているのもあり、漁協が網を主体にして浅く獲る方式に変えたんです。そうすることでバリエーションが増えて、自分としてはやりやすくなりました。前の代の時は同じ種類しか魚をとらず、並べられるほどないから、出前が主だったのかもしれないですね。今のように産地から取り寄せられない時代でしたし。

―都内で修行していた時と今の環境を比べて感じる違いはありますか?

栗原氏:魚は素晴らしいけど、人間は少しやりづらいです。全く違うので…(笑)当時感じていたのはこだわりの強い漁師が多いから、黙って「美味しい」って食べてくれなかったんです。「大将、一番安い酒でいいから湯呑みでくれよ」っていうニーズがあったり。

―漁師のお客さんが多いのは、なかなかハードルが高いですね。

栗原氏:魚のプロですから。修行してたってそれには敵わないところがあります(笑)

―東京で修行した後に、東京でお店を開くことを考えたこともあったのでしょうか。

栗原氏:それは全く無くて、出るときにはここに戻ってくるつもりでした。引き継いだお店だからこそ、稼げないことはあっても生活の水準が大きく下がることもありません。寿司職人は好きじゃないとやれない仕事だと思うので、ビジネスとしてやるつもりなら他の仕事が良いと思います。稼いでいる職人も他業種と比べるとそんなにですし。

あらかじめ地元で看板とお店があるのは、家系で継ぐ大きなメリットですね。お客さんから求められるものが変化したと感じることはありますか?

栗原氏:自分が帰って来てからは、より”地のもの、地のもの”になりました。本当の地魚を謳うために、シャリも米を炊く井戸水も含めて地元産のものにしています。お米も、地元産コシヒカリを敷地内の井戸水を汲み上げて炊き上げています。そういうこだわりは伝わるんですよね。お客さんの中には、3代前から通ってる方もいますし、4代前からの方もいらっしゃって、ありがたいです。「元気でね」と。

―すごいですね。地元に密着し続けることがこのお店の求められていることなんでしょうね。

栗原氏:そうですね。このお店の本来の姿なのかもしれないですね。のんびりした良い町なんです。でもよく言われるんですよ、「何にもない町だね」って。でも、中には「なんでもある町だね」って言う人もいる。何もないのか、それとも東京にはないものがあるのか。でも、もうちょっと遊ぶところがあると良いかな。(笑)

―時代の変化に対応しながらも職人として変わらずこだわり続ける信念と、南房総を愛し密着し続ける姿勢が、150年続く理由だと分かりました。

何より、修行と歴史に裏付けされた期待を裏切らないお寿司が、信頼され続ける秘訣ですね。栗原さん、本日はありがとうございました!

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